LegalOn Technologies Engineering Blog

LegalOn Technologies 開発チームによるブログです。

開発組織の北極星を示すコンパス:LegalOn Technologies Developers Compassの作り方

はじめに

こんにちは。株式会社LegalOn TechnologiesでSoftware Engineer(Frontend)として働いている川島です。

突然ですが、組織が急成長するに伴ってメンバーの多様性が増し、以前のような阿吽の呼吸が通用しなくなったり、価値観や考え方の食い違いによる衝突が頻発した際にどう対処したらいいかわからなかったり…。こうした課題に直面している企業は多いのではないでしょうか。

私たちLegalOn Technologiesにおいても、開発組織のメンバーが2025年7月現在で200名を超え、上記の課題に直面しています。この課題を乗り越え、全員が同じ方向を向いて開発に邁進するために、開発組織が重視すべき価値観や振る舞いを言語化した「LegalOn Technologies Developers Compass」を作成しました。ぜひ以下のリンクからご覧ください!

speakerdeck.com

この記事では、「LegalOn Technologies Developers Compass」作成プロジェクトの推進役を務めた私の観点から、発足〜社内公開のリアルな道のり、そこで得た実践的な学び、そして今後の展望についてご紹介します。

なぜLegalOn Technologies Developers Compassを作ったのか

前述の通り、弊社の開発組織には200名を超えるメンバーが所属しており、2年で約2倍の人数まで急成長しました。国籍や専門領域も多岐にわたり、プロダクトの数も増え、組織は急速に多様化しています。

こういった組織の拡大は喜ばしい状況である一方、これまで明言されていなかった暗黙の了解が通じなくなってきている事例をちらほら見かけるようになりました。

例えば以下のようなものです。

  • 答えがわからない議論に必要以上に時間をかけてしまっており、実行までに時間を要していた
  • 他チームでも有用な知見が、チーム内のみで共有されており、他チームも知っていればもっと効率的に動くことができた
  • 検討の際に一次情報ではなく、伝聞情報をもとに検討を進めてしまっていた

これは規模の拡大に加えて、数年前よりも多様な人材が集まってきてくれたことに起因していると思います。各々がもつバックグラウンドで良しとしているものを持ち寄ることは、今後さらに飛躍するために必要不可欠で素晴らしいのですが、日々一緒に働く中で大切にする価値観が異なると、都度議論になりスピード感が失われてしまいます。

そこで私たちは、組織として「何を大切にし、どう振る舞うべきか」という共通の指針を明文化することにしました。それが「LegalOn Technologies Developers Compass」です。

この「LegalOn Technologies Developers Compass(以下、文中では"Compass"と記載)」はその名の通りコンパスです。意見が食い違った時には相互理解を促し、進むべき道に迷った時には全員が同じ方向に向かって開発を進める。このようにいつでも立ち返れる「北極星」を指し、頼れる存在になることを目指しました。

LegalOn Technologies Developers Compassの構成

弊社には次の画像に示したように全社共通の6つのValueがあります。これらはLegalOn Technologiesのメンバーが共有する行動指針・判断基準であり、「法とテクノロジーの力で、安心して前進できる社会を創る。」というパーパス実現のために大切にすべき考え方です。余談ですが、Valueは六法全書にちなんで6つ作成されました。

Compassは、これらのValueを開発組織向けにブレイクダウンしたもので、大きく3つの要素で構成されています。

1.理念 (Philosophy): 私たちが目指す開発組織の姿

2.価値観(Manifest): グローバルな成長を支えるための判断基準

3.行動指針(Behavior): 日々の業務で実践すべき18の具体的なアクション

各行動指針には、タイトル、説明文、そして内容を直感的に理解するためのイメージ画像が付随します。数が多いため全タイトルが記載された目次のスクリーンショットを載せます。

理念と価値観についてはCTOが熱い思いを込めて執筆し、行動指針はプロジェクトメンバー全員で力を合わせて考えるという分担で作りました。ピンときた方もいるかもしれませんが、みなさんご存知 アジャイルソフトウェア開発宣言 をインスパイアした記述になっています。読み上げたくなるようなリズム感がありつつカッコいい仕上がりになっていると自負しています。

挑戦の軌跡:完成までの7ヶ月

ここでは、Compassの作成プロジェクトが始まってから社内公開までの過程や苦労した点、そしてそこから得た学びについて、時系列で筆者の視点からご紹介します。

プロジェクト発足

2024年10月末、CTO深川によるメンバー募集からプロジェクトが始動しました。私自身、開発組織の急成長による連携の弱さに課題を感じていた時に、ちょうどCTOから次の画像のようなCompass作成メンバーの募集があったため、勇気を出して手を挙げました。

最終的にプロジェクトメンバーはCTOをリーダーに、エンジニアリングマネージャー2名、デザインマネージャー1名、そして私の計5名となりました。

私だけリーダーやマネージャーといった役職がなく時間を割きやすい、また、CTOから伸び代を期待されたことでプロジェクトの推進役に任命されました。ほぼ全てのMTGのファシリテーション、資料や議事録作成のほぼ全てを担当しました。

学び:変化や挑戦は手を挙げるところから始まる。

大AI時代におけるアンケートの手動集計

プロジェクトはアンケートの集約と分析から始まりました。プロジェクト開始前に開発チームに関するアンケートが実施され、集まっていた回答が対象です。

その質問項目は次の通りです。

  • LegalOn Technologiesの開発チームは一言で言うとどういう集団だと思いますか?また、その理由を教えてください。
  • LegalOn Technologiesの開発チームはどんな集団であってほしいと思いますか?いくつ挙げてもかまいません。
  • LegalOn Technologiesの開発チームはどんな集団であってほしくないと思いますか?いくつ挙げてもかまいません。
  • LegalOn Technologiesで一緒に働くメンバーはどういう人であってほしいですか?いくつ挙げてもかまいません。
  • LegalOn Technologiesで一緒に働くメンバーはどういう人であってほしくないですか?いくつ挙げてもかまいません。
  • 今のLegalOn Technologiesに既にあり、これからも守って行くべきだと思うカルチャー(大事にすべき価値観や行動)はなんですか?いくつ挙げてもかまいません。
  • 今のLegalOn Technologiesには足りていないけど、これから育てていくべきだと思うカルチャー(大事にすべき価値観や行動)はなんですか?いくつ挙げてもかまいません。

これらの質問の回答は自由記述形式で集められていました。大量の回答から本質的な価値観を抽出してクラスタリングする作業は想像以上に困難でした。

当時はAIツールを活用してみたものの、微妙なニュアンスの違いを捉えるには限界があるとわかり、結局は人間の手で抽出とクラスタリング、そして適切な言語化を行う必要がありました。ちなみにですが、黙々と作業したところ回答内容をほぼ全て覚えられ、後のMTGで役立ちました。

学び:人の思いの言語化は難しい。微妙なニュアンスの違いを調整することはAIよりまだ人間がやった方がいいかもしれない。

プロジェクト推進での葛藤

アンケートをクラスタリングした結果、行動指針の方向性が決まりました。この上で、アクション決定のために1時間×15回以上のMTGを実施しました。メンバーは私を除いてCTOやマネージャーなど多忙な役職者ばかり。カレンダーが画像にある通りほぼ埋まっており、通常業務の合間を縫って議論の時間を確保することは至難の業でした。

また、プロジェクト中盤以降は推進役を上手く務められなかったりタスクを抱え込んでしまったりと精神的に苦しい時期もありました。ひとえに自分自身の「依頼の仕方」に課題があったと今では強めに反省しています。この経験を通じて、相手の状況を理解し、的確に協力を仰ぐことの重要性を学びました。

学び:人に依頼する勇気を持て。

忘れられない夜の半日合宿

進捗の遅さに危機感を覚えたため半日合宿を開催し、16時から23時過ぎまで会議室に籠もって内容を詰めていきました。全員が力尽きるまで思考を深めて詰めた結果、かなりの進捗を出すことができ、骨子を固めるところまでできました。

途中、CTOからの寿司の差し入れが全員の心と体を救ってくれました。張り詰めていた空気と疲労の色が美味しい寿司で払拭された瞬間でした。

ただ、私はファシリテーターと議事録担当を終始担当して疲労困憊だったのもあり、寿司の味と何を食べたかを覚えていないのはここだけの話です。ここでも依頼する勇気がなかったことが悔やまれます。

学び:良いアウトプットのために、寿司といっしょに適度な休息を。

※ お寿司の写真を撮影し忘れていたため、筆者の記憶をもとにChatGPTに生成してもらいました

「降臨待ち」の苦悩とLLMの活用

概念は固まったが良い表現にできていないものをプロジェクトメンバー全員が納得する言葉に結晶化させるまでの時間を、私たちは「降臨待ち」と呼んでいました。要するに「ひらめき待ち」です。なかなか降臨しないことが数回あって難航しましたが、全員で頭を捻り尽くしたり生成AIに大量に案を出してもらったりして響きの良い言葉を編んでいきました。

一方で、説明文とイメージ図の作成には生成AIを積極的に活用し、その効果を実感しました。特に、それまで積み上げてきた議事録や伝えたい内容の書き起こしがアウトプットの質を高め、思いを的確に表現する助けとなりました。地道に議事録を取り続けたことが功を奏しました。

学び:生成AIの進化は想像以上。思いは言語化して生成AIを活かす材料を作っておこう。

完成までの7ヶ月と、リーダーシップの重要性

プロジェクト始動から完成までに実に7ヶ月もの時間を要しました。当初は年度末までに間に合えばいいな…と思っていたのですが、想定の倍以上かかってしまいました。しかし、その分だけ達成感が大きく、納得のいくものが完成したと自負しています。開発部全体に公開した際のパブリックコメントで高評価をいただけたときは、本当に嬉しかったです(以下アンケート結果のスクリーンショット参照)。

想定より時間を要した要因の1つに、途中でプロジェクトが数回停滞したことがあげられます。そのたびに「もう一度頑張ろう!」とCTOに声を掛けて立て直してもらいました。推進役として恥ずかしい限りなのですが、真のリーダーシップを目の当たりにできました。

学び:プロジェクトが止まった時こそ真のリーダーシップの見せ所。

活用方法と今後の展望

Compassには日々の業務における「望ましい振る舞いの拠り所」としての役割を期待しています。考え方で対立した時や進め方に迷った時に、このCompassを引用・参照することで、北極星の方向、つまり立ち返るべき姿勢を確認する。こうした文化を根付かせていきたいです。

今後の展望

今後は、役員によるCompassの体現エピソードの共有や「行動指針の強化月間」といった施策を通じて、組織への浸透をさらに加速させていきたいと考えています。また、組織の成長やフィードバックに合わせて年一回のアップデートを予定しています。さらに、この記事の冒頭にリンクを記載した通り、すでにCompassが社外にも公開されていますので、採用候補者の方々に「LegalOn Technologiesらしいエンジニア像」を伝える一助となればと考えています。

謝辞

本ブログのレビューをしてくださったプロジェクトメンバーの皆様、Compassのロゴを爆速で作成いただいた弊社のデザイナーの方、そしてこのプロジェクト業務により開発タスクに影響が出てしまったにもかかわらず理解いただいた筆者所属チームの皆様。

上記の皆様に深く感謝します。これらの方々の協力なしでは頓挫していたはずです。ありがとうございました!

おわりに

「LegalOn Technologies Developers Compass」の内容と作成秘話、そして得た学びを紹介してきました。このCompassは開発組織の成長と課題解決に大きく貢献するものであり、その重要性は今後ますます高まると確信しています。

この記事が組織文化の言語化や文化醸成の参考になれば幸いです。そして何より、まずは弊社の開発組織が自らこの「Compass」を心に留め、実践していくことを願っています。

仲間募集!

最後に、LegalOn Technologiesでは一緒に働く仲間を募集しています。冒頭に記載の通りプロダクトが増え、会社も開発組織もどんどんと拡大する中で組織の課題を解決していくことはとてもやりがいがある仕事だと思います。 ご興味がある方は、以下のサイトからぜひご応募ください。 皆様のご応募をお待ちしております!

herp.careers