はじめに
LegalOn Technologiesが提供する「LegalOn: World Leading Legal AI」は、契約書ドラフト・レビューや案件の管理、法務相談まで、法務業務をワンストップで支援する革新的なサービスです。リリースから1年半、企画開始から約2年半が経った今、プロジェクト立ち上げの背景、開発の進め方、これまでの振り返りや今後の展望、さらには技術面での学びまでを、全9回にわたるブログシリーズとしてお届けしていきます。
第3回となる本記事では、「LegalOn」のリリース後に焦点を当て、厳しいスケジュールの中でいかにプロダクトの成長に繋げたか、そして今後の展望について、以下の3名に話を聞きました。
- 丹野:Engineering Manager
- 2025年3月まで、LegalOn Head of Engineering を担当
- 泉:LegalOn Head of Product
- 翁:LegalOn Head of Engineering

これまでの記事はこちら
第1回「LegalOn」誕生の裏側:なぜ「LegalOn」開発は始まったのか - LegalOn Technologies Engineering Blog
第2回「LegalOn」誕生の裏側:不可能を可能にした「爆速」開発プロジェクトの全貌 - LegalOn Technologies Engineering Blog
前回の記事「第2回「LegalOn」誕生の裏側:不可能を可能にした「爆速」開発プロジェクトの全貌」では、「LegalOn」をわずか1年でリリースに導いた開発の裏側に迫りました。約200本のPRD(プロダクト要求仕様書)から本当に必要な機能を絞り込み、デザインと実装を同時に進行。定期的にデモ動画を公開しながら、チーム一丸となって走り抜けました。1年間で奇跡のリリースを実現した舞台裏を、時系列に沿って現場メンバーのリアルな声とともにお届けしています。
リリースに至るまでの軌跡 ‐ 困難を乗り越えた開発秘話
—「LegalOn」プロジェクトが本格的にスタートしたのは2023年4月。1年後の2024年4月にリリースを目指すというタイトなスケジュールの中で、開発はどのように進んでいったのでしょうか。
泉 私がLegalOn Technologiesに入社したのがちょうどプロジェクトの始動タイミングでした。そこからすぐにPRDのフォーマット作りと、目線を揃えるための業務フロー案の作成に取りかかりました。3か月という限られた期間でPRDをまとめる必要があったため、当時プロダクト責任者だったCPOの谷口さんとPdM全員が集まって週2回のレビュー会を行い、合計200本以上のPRDを仕上げたのを覚えています。
丹野 私が参画したのは7月頃で、PRDの完成後にエンジニアリングマネージャーとして要件定義の作成から引き継ぎました。10月には実装を始める予定でしたが、初めてこうした大規模なプロダクトに関わるメンバーも多く、要件定義の精度を揃えるのに想定以上の時間がかかりました。結果として、開発スタートは11月にずれ込みました。 開発が始まってからも、基盤やフレームワークの整備が追いつかない中で、各チームが試行錯誤しながら前に進めていく状況が続きました。特にマイクロサービス構成特有の難しさもあり、個別には動いていた機能が連携すると想定通りに動かない、といった問題にも直面しました。それでも、チーム間で連携を強化しながら一つひとつ課題を解消し、2024年の年明けにようやくプロダクト全体が動き始めました。
正直、4月に予定通りリリースできたことは「奇跡」ですね(笑)でもそれだけ、全員で前を向き続けた結果だったとも思っています。
— その中で、成功の鍵となったことは何だったでしょうか?
丹野 リリースのスコープを見直し、実装する機能の優先順位を明確にしたのは大きな判断でした。すべてを詰め込むのではなく、素早く届ける必要のある優先度の高い機能に絞り込むことで、より集中して開発を進められる体制を整えました。
泉 記者発表の予定を先に決めていたことも、良い意味で背中を押してくれました。あえて外部への約束で引き返せない状況を作ることで、「絶対に間に合わせる」という意志がチーム全体に浸透していました。
私は3月にはストーリー作りやプレゼンテーションの作成など記者発表の準備を始めていたので、「予定通りリリースできると信じてやるしかない」という気持ちで取り組んでいましたね。

リリース後1年間の飛躍 - 1年で298機能の追加、そのスピードと品質の裏側
— 2024年4月15日に「LegalOn」は無事リリースされました。リリース後はどのように開発を続けていたのでしょうか?
丹野 無事リリースできたときはほっとしましたが、息つく間もなくすぐに次の開発に入りました。4月は障害対応と、当初リリースに間に合わなかった機能の開発に追われていましたね。
たとえば締結後の契約書を管理する「コントラクトマネジメント」や電子契約締結を担う「サイン」といった大きなモジュールは、それぞれ8月、12月のリリースを目指して、再度目標を設定して開発を進めました。契約書レビューができる「LegalForce」や契約管理を支援する「LegalForceキャビネ」など当社の既存サービスとの差別化もどんどん図っていかないといけない状況だったので、気は抜けなかったです。
泉 実は「LegalOn」はリリース前の段階で、すでに200社もの企業が契約してくれていたんです。それだけ期待を寄せられていたプロダクトだったので、お客様の期待に応えるべく、リリース直後から機能追加を全力で進めていました。お客様に対しても週次で進捗報告を行ったり、今ある機能での活用方法を提案したりと、営業やカスタマーサクセスとも密に連携しながら進めていました。
なかでも、5月中旬にリリースした「案件ラベル」機能は、LLMを活用した先進的な取り組みとしてお客様からも好評でした。既存プロダクトとの差別化や移行を後押しする機能として、AI領域の開発は特に力を入れていましたね。
— リリース後に苦戦したことはありますか?
丹野 やはり大規模開発ならではのマネジメントの難しさはありました。開発チームの規模が一気に拡大していく中で、スケジュールや優先順位の調整は常に試行錯誤でしたね。エンジニアリングマネージャーが複数のチームを兼務していたので、どうしても目が行き届かない場面も出てしまっていました。
また、業務委託のメンバーも多く在籍していたのですが、働く時間帯やバックグラウンドもさまざまで、意思疎通においては工夫が必要でした。採用したエンジニアリングマネージャーが途中で加わって体制を整えられたことで、ようやく安定して開発を回せるようになったと感じています。
翁 「LegalOn」は2025年7月15日に、国内のみならずグローバル向けにも利用できるようリリースされましたが、複数の地域へのサポートを実現するための初代インフラから現行インフラへの移行も大変でしたね。
「LegalOn」は開発当初からグローバル展開を見据えていたプロダクトだったので、2024年度の上期は多国籍展開・グローバル展開の再検討を行い、下期から本格的に移行の対応を始めました。もともとグローバル対応は既存サービスである「LegalForce」で経験していたので、方向性は明確に持てていて、必要な判断もスムーズに行えました。もちろん並行して機能開発や障害対応もあったので楽ではなかったですが、これまでの知見を活かして取り組めたのは非常に大きかったです。
泉 スケジュールの見積もりも、当初は読みきれない部分が多かったですね。「これはいけそう」と思っていても、実際に進めてみると想定以上に複雑でした。ですが、振り返りを重ねる中で、徐々にプロダクトの特性やボトルネックが見えてきて、判断の精度も上がってきたと思います。
—1年間で300もの機能をリリースしたスピードには驚きます。なぜ実現できたのでしょうか?
丹野 既存プロダクトの開発チームの合体に加えて採用で人を増やし、最終的に100名規模の開発体制を築けたのは大きな要因だと思います。スクラムベースでの開発と、振り返りによる着実な課題解決が、スピードと品質の両立につながりました。
また、PdMの力も非常に大きかったですね。通常、要件定義の遅れが開発全体の停滞につながることが多いのですが、PdMが常に先を見据えて的確に要件をまとめてくれていたおかげで、開発チームは止まることなく前に進むことができました。
泉 プロダクトとしての整合性がきちんと保たれていたのもよかったです。これだけ複雑で多機能なシステムを短期間で構築しながら、一定の品質でリリースできていたのは、各チームがうまく連携できていた証だと思います。
丹野 チームの人数が増えていく中でも一定のスピードと品質を保てた背景には、「忙しくても課題解決のための振り返りは必ずやる」というスタンスが全体に浸透していたことがあります。ポストモーテムや定期的な振り返り、ドキュメント整備、会議体の見直しなど、大規模開発に必要な土台を地道に整えていきました。
翁 多様なメンバーが揃っていることもプラスだったと思います。個性の強いメンバーがそれぞれの強みを活かして、弱点を誰かが自然にカバーする関係性があったのは、マネージャー陣の采配やチーム編成の工夫の成果だと思います。
丹野 なにより、必要なタイミングで本当にいいメンバーが入ってくれていたんですよね。「この領域を強化したい」と思ったときに、その領域で力を発揮してくれる人がちゃんといる。そんな頼もしさが常にあって、問題が起きても「自分達ならきっと解決できる」という空気が生まれていたと思います。
— リリース後、障害はありましたか?
丹野 軽微な障害はいくつかありましたが、代替手段を事前に用意していたので、お客様には継続して利用いただけました。QAチームが専任でいて、網羅的なテストを徹底してくれたのが非常に大きかったと思います。
翁 「LegalOn」は完全なゼロからの開発ではなく、既存プロダクトで培った技術やAIの仕組みをうまく活用しています。たとえば初期のレビュー機能などは「LegalForce」の構造を流用していて、それが安定性やリリースへのスピードにも繋がったのだと思います。
丹野 技術的負債への対応も意識していて、リリース後の4月には全チームで一斉にリファクタリングを実施しました。短期間で一気に開発した分、整理すべき箇所も多かったですが、リファクタリングをするという意識づけを行っていました。その後も、機能開発の節目では必ずリファクタリングを実施するよう継続的にチームに呼びかけています。

未来への展望 - グローバルとAIが描くインパクト
— リリースから1年を経て、今後の「LegalOn」はどのような未来を描いているのでしょうか?
翁 現在、海外事業、特にUS市場の成長が著しくなっています。レビュー機能をUSで展開しており、そこからグローバル化を進める構想のもと、2025年の年始にかけてレビュー機能の開発体制も一本化しました。実際に、グローバル事業の成長率は前年比40%増加しており、今後のさらなる成長のドライバーになると確信しています。
今後は世界を視野に入れた意思決定を行っていくため、開発体制もグローバルに統合していきます。具体的には、日本とUSで同じソースコード、同じシステム構成で、原則同時にリリースしていく体制を整備しており、世界基準のプロダクトへと進化していくフェーズに入っています。
泉 そのためにはPdMも英語を頑張らないといけないですね(笑)日米両方にPdMがいて、仮想組織として連携しながら動いていくという体制は、他社でもあまり見ないユニークな形だと思います。
翁 これまでは日本に開発体制があり、USにビジネス体制があるという分業構造で2年間うまくやってこれたのですが、ソフトウェア業界ではかなり珍しいケースだったと思います。その成功体験を、今後は開発組織全体に広げていきたいと考えています。
丹野 僕は今、「LegalOn」の開発チームからは離れて別事業の開発に携わっていますが、他のサービスとの連携もさらに広がっていくと期待しています。例えば、別のプロダクトの中で契約業務や法務対応が必要になったときに「LegalOn」のAIエージェントが連携して自動的に解決してくれるような世界観ですね。そうした構想の中で、「LegalOn」が中核となって「エージェント構想」や「エコシステム」を牽引していくと考えています。
泉 それが実現すれば、プロダクトとしての価値もさらに広がっていきますよね。単なる機能の集合ではなく、社会全体の仕組みを変えていくような存在になると思います。
翁 まさにその通りです。法務領域におけるAI活用の可能性を最大限に引き出し、お客様の業務効率化、そして社会全体のDX推進に貢献していきたいと考えています。Global Legal AI No.1を本気で目指します。

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次回は、「第4回「LegalOn」誕生の裏側:全体アーキテクチャ設計と技術選定編」をお届けいたします。