はじめに
こんにちは、CTOオフィスの時武(@tokichieto)です。
2025年12月16日、「AIが変えるプロダクトの未来」をテーマとしたカンファレンス「AI Engineering Summit Tokyo 2025」が開催されました。LegalOn Technologiesからは私とGenAIグループの藤田が登壇し、「全社で推進するAI活用 ― ダブルCoE体制と "LegalRikai" が支えるリーガルテックの進化」というタイトルで発表を行いました。
本記事では、当日お話しした内容のうち、特にセッション前半でお話した「組織内でどのようにAI活用推進を行ったか、それにより見えてきた成果と課題」に関する内容を中心に振り返りつつ、今回のカンファレンスに参加したことで感じた、業界におけるAI活用の現在地について考察します。

1. 「ダブルCoE体制」の立ち上げ
弊社ではCoE (Center of Excellence) 体制を構築して組織でのAI活用を推進してきました。Center of Excellenceとは、組織横断的なミッションを達成するために、社内に点在するリソースを集約し組織化された特命チームのことです。CoEを設置することで、社内の人材や情報・知識を共有することができ、業務の効率化や変革を進めやすくなります。
弊社のAI活用で特徴的なのは、このCoEを2つ立ち上げ、それぞれ「開発」と「全社」というスコープを担当し同時並行でAIの活用推進を行ったことです。
| CoE | 責務 | 主な活用ツール |
|---|---|---|
| AID CoE(AI-powered Development) |
AIによる開発生産性の向上 | GitHub Copilot, Cursor, Devin, Claude Code |
| AIM CoE(AI-powered Improvement for Maximization) |
全従業員の業務効率化とAIリテラシー向上 | Gemini, Notion AI, Slack AI, ChatGPT Enterprise |
この背景には弊社の組織構造がありました。弊社ではマトリクス組織を採用しており、組織も細分化してきています。また、全社の従業員数も600名程度の規模になっており、ボトムアップでAIの活用を推進していくのは難しい状態でした。一方で業界の変化は目覚ましく、AI活用に関しては1日たりとも無駄にはできない危機感がありました。
そのような状況下では、トップダウンにAI活用を推進する特命チームを組成するのが一番効果的だろうと考え、まずCTOオフィスからスピンオフする形で AID CoE を立ち上げました。当初 AID CoE では開発組織内だけでなく、全社的なAI活用の支援も視野に入れていましたが、ほどなくして管理部門内での AIM CoE 立ち上げの機運が高まり、「開発」と「全社」での住み分けをする形での分担が決まりました。
開発者向けツールは原則CTOオフィスでアカウント管理をしていた一方、全社ツールはコーポレートITで管理を行っていたため、それぞれの管掌範囲に基づいて、結果的にはきれいにCoEの担当範囲を分割することができました。
2つのCoE体制により、顕在化しつつあった以下のような課題に対処していきました。
- ガバナンスとセキュリティリスク:ツール乱立による「シャドーIT」やコスト予測・アカウント管理の困難さ
- ナレッジの分断:属人化によるチーム間のスキル格差や、ベストプラクティスのサイロ化
2. ツールの普及と具体的な活用事例
2つのCoE体制でAIツールの導入や活用推進を行った結果、社内におけるAIエージェントの普及率は今年度だけで劇的に向上しました。開発向けのAIコーディングエージェントに限って言えば、1年前はほとんどのエンジニアがそれらを使わずに開発していたところから、今ではほとんどのエンジニアが活用しており、使って当然の業務スタイルへと変化しています。全社的な活用においても、ChatGPT Enterpriseに関しては全社で80%以上の高い月次アクティブ率を記録しており、多くのメンバーが日常業務に利用している状態が見て取れます。
これらの状況を踏まえると、CoE体制によるAI活用推進が功を奏したと言えます。600名規模の複雑な組織構造を持つ会社においても、1年以内に十分AIツールの普及を高いレベルで行えることが示されました。

AID CoEの立ち上げ当初、CoE だけがAI活用を頑張るのではなく、なるべくこの取り組みが開発組織全体に広まり、各所で同時多発的にAI活用が進んでいく状態を理想と考えていましたが、実際にそのような状態を実現することができています。あるチームでうまく行った事例を AID CoE が集約し、他チームに横展開するための場をセッティングするといったコラボレーションも加速しており、社内のAI活用においてハブ的な役割を担うことができています。
具体的な社内での活用事例については、発表資料を公開しておりますのでこちらをご参照ください。
3. 生産性向上の成果と次なる課題
AID CoEの立ち上げ当初、CoEの取り組みを通して「レベル1の生産性」を3倍に引き上げることを目標に置いていました。「レベル1の生産性」とは、広木大地氏が言及されている開発生産性の3階層の定義から借りてきたものです。( https://qiita.com/hirokidaichi/items/53f0865398829bdebef1#開発生産性の3階層 )
- レベル1(仕事量):決まった時間で、どの量の仕事を終えることができたか
- レベル2(期待付加価値):決まった時間で、どのくらいの価値が期待される仕事ができたか
- レベル3(実現付加価値):決まった時間で、どのくらいの価値が実現できたか
結果的に、今年度だけでレベル1の生産性は定性的・定量的ともに明確な向上が確認できました。当初目標に置いていた3倍はなかなか高い壁であることが途中で分かりましたが、チームによってはプルリクエスト数が1.5倍以上に増加したケースや、1ヶ月で大規模なPoCを形にしたケースなどが実現できています。
しかし、レベル2以上で定義される「ビジネス価値」への転換については、まだ効果が限定的であることも見えてきました。今のところ、アウトプット量の増加に比例して機能リリース数や売上が同様に増える状態には達せておらず、社内の様々なチームを観測する中でも、組織規模が大きくなるほどその傾向が見て取れました。
学び:AIは「増幅器(Amplifier)」であり、組織としての土台が大事
2025年10月に公開された最新のDORAレポート「AI 支援によるソフトウェア開発の現状」では、「AIは増幅器である: AI is an amplifier」と表現されています。
これは、AIツールは基本的に導入しただけで十分な効果を得ることはできず、土台となる組織の体制やワークフロー、開発基盤までもが複雑に影響しており、それらを地道に改善していくことが本当に効果を得るためには必要不可欠であるという示唆です。
弊社においてもちょうどこの壁に直面しており、ツール自体の普及率が十分になったいま、組織課題への対処は待ったなしの状況です。幸い、全社で組織課題を改善していく機運は高く、この波に乗って一気にAIネイティブな開発組織へと変革させていきたいところです。
4. 製品向けモデル評価の取り組み「LegalRikai」
セッション後半では、藤田より製品に採用するLLMの精度評価について、リーガル領域特有の課題に対してどのようなアプローチを取っているか解説しました。
日本語かつ日本法に特化した実務的なベンチマークが少ないという課題に対し、弊社では自社ベンチマーク「LegalRikai」を作成することでモデルの評価を行っています。条文修正やリスクの特定など、実際の実務に基づいた高度なタスクでモデルの性能を検証し、新しいモデルがリリースされた際などに評価を行い、製品に採用するモデルを決定しています。
「LegalRikai」自体は社外秘データを含むベンチマークのため外部公開ができませんが、今回外部公開が可能な「LegalRikai: Open Benchmark」をリリースしました。このベンチマークでは実際の契約書を模した疑似データセットを使用しており、自由にお使いいただくことができます。
すでに「LegalRikai: Open Benchmark」は公開済みですので、ぜひ使っていただければ幸いです。
legalontech.jp ここまで、セッションでお話した内容を簡単に振り返ってみました。セッションに参加いただいた方の中には頷きながら聞いてくださっている方も散見され、セッション後に「同じような立場を担っていて情報交換したい」と何名かの方にお声がけいただいたのが非常に印象的でした。AI活用推進の1つの事例として、参考にしていただけると幸いです。
最後に、今回 AI Engineering Summit Tokyo 2025 に参加して感じたことをお伝えしつつ、まとめに入ります。
カンファレンスに参加して感じた業界の現在地
まず、Cursor の Lee Robinson 氏や Cline の Andrei Edell 氏の基調講演を聞き、グローバルでの最先端事例に驚嘆するとともに、早く同じ境地にたどり着きたいという思いが湧いてきました。AIエージェントが登場した当初は、なかなかコストがかさむツールだと感じた記憶がありますが、今やAIツールはインフラ投資の一環であり、人件費に匹敵する水準での投資が必要であることを強く実感しました。
また、スポンサーセッションでは様々な会社の成功事例や苦労を目にすることができ、AIを推進する同じ立場として親近感を覚えたセッションも多くありました。弊社と同じような活用フェーズで苦労している事例もあれば、そこから一歩二歩進んだ事例もあり、とても刺激を受けることができました。
次回同じようなカンファレンスが開催される時には、業界の状況も大きく変化しているだろうと思います。次のカンファレンスに新たな成功事例を持っていくことができるよう、LegalOn Technologiesでは全社を挙げてAI活用を加速していきます!
当日の出展の様子はLegalOn Now!!で公開しておりますので、ぜひこちらもご覧ください。
まとめ
本記事では、AI Engineering Summit Tokyo 2025のスポンサーセッションでの登壇内容を振り返りながら、弊社におけるAI活用の今後の方向性をお伝えしました。
AIによる生産性向上は、単なるツールの導入ではなく、組織の在り方そのものをアップデートするプロセスです。LegalOn Technologiesでは、この変化を楽しみながら、共にAIサービスの進化を加速させる仲間を募集しています。
ご興味のある方は、ぜひカジュアル面談などでお話ししましょう!
謝辞
AI Engineering Summit Tokyo 2025ではたくさんの人がスポンサーブースに立ち寄ってくださいました。ブースに来ていただいた皆様ありがとうございました。カンファレンスを主催していただいたFindy様、他社のスポンサー様、登壇者の皆様にも、深く感謝申し上げます。非常に有意義な時間を過ごすことができました。
また、社内でも多くの方にご協力いただき、イベントへの参加を実現することができました。一緒に登壇していただいた藤田さん、イベント当日スポンサーブースを担当していただいた荒崎さん、引持さん、勝田さん、遠山さん、堀次さん、本記事をレビューいただいた深川さん、本当にありがとうございました!